令和4年度国立大学法人佐賀大学学位記授与式式辞
今日,ここに,学位を授与された1,514名の卒業生,修了生の皆さん,佐賀大学を代表して心からお祝いを申し上げます。卒業・修了の日を迎えることになった皆さんは,入学以来,真摯に勉学に励み,様々な困難に打ち克ち,本日学位を授与されました。また,遠く母国を離れ,本学で学んだ留学生の皆さんは,言葉や習慣の異なった困難な環境の中で研鑽を積み,見事学位を取得されました。このことに心からの敬意を表します。
そして,今日この日を迎えるに当たり,卒業生,修了生を物心両面から支えてこられたご家族の皆様,同窓会をはじめ,ご支援いただいた全ての皆様に,佐賀大学の教職員一同,心からお祝いとお礼を申し上げます。
さて,皆さん,佐賀大学に入学してきた日のことを思い出してみて下さい。佐賀大学で多くのことを学びたい,様々なことを経験したい,たくさんの友人を作りたい,人として成長したい,と希望に胸を膨らませていたことでしょう。また,これから新たな第一歩を踏み出そうとしている皆さんは,佐賀大学へ入学してきた日と同じように,新しい環境の中で,新たな出会いや仕事に対して期待に胸を膨らませているのではないでしょうか。卒業後の未来,佐賀大学が遠い故郷(ふるさと)になったとき,皆さんの前にはどんな景色が広がっているでしょうか。
社会は,予測困難な時代を迎えようとしています。デジタルサイエンスの目覚ましい発展,SDGs,カーボンニュートラルの実現に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)など,我々の想定を超えた速度で世界は変わっています。スマートフォンをはじめとした情報通信機器の普及により,個人が容易に世界中の情報にアクセスすることが可能となりました。これにより,今後ますますグローバル化が進んでいくことが予想されます。スマートフォンは開発途上国でも急速に普及が進んでおり,様々な国や地域の人々が多様な情報通信技術を活用して従来になかったビジネスや活動を活発に展開していることを考えると,日本の先進性や豊かさが今後も続いていくのかは不透明な状況です。また,例えば気候変動は地球規模で自然災害の多発や環境の悪化,飢餓の要因の一つとして,人類の大きな脅威となっており,そしてロシアのウクライナ侵攻では,多くの尊い命が失われ,日本を含め世界各国に大きな影響を与えています。
これらのことは,今の日常が決して当たり前のものではないのだと,私たちに警鐘を鳴らしています。内在している問題や課題に目を向けると,必ずしも善と悪といった単純な対立構造で捉えられるものばかりではありません。地理的,歴史的な要因や文化的な要因など,多様で複雑な問題が横たわり,時には深刻な対立が生じていることもあります。
これから皆さんは,それぞれが選んだ新たな進路に進まれますが,このような社会的状況の中で必要となるものは,誠実な人間性を基本としつつ,知識や経験,行動することが融合して得られる,「これからを生き抜く力」です。すなわち幅広い豊かな教養を基礎として,自ら考え,未知なるものに挑戦する行動力,確かな判断力や表現力,広い視野で物事を見る力,多様な価値観や背景を持つ人々に対する理解と協働する力です。皆さんがこれから直面する問題は,正解のあるものばかりではありません。そんな中にあっても,皆さんは問題の本質を見極め,自ら課題を発見し,課題解決のための方法を模索し,実行して乗り越えていく必要があります。佐賀大学では,皆さんが社会で必要となる力を身に付けるための教育に力を注いできました。皆さんの中には,既にその力が根を張り,大きな幹を形作っています。
私から皆さんへ,これからも一人ひとりが自らを高め,人として成長し続けていくために大切にしてほしいことを二つお伝えします。
一つ目は,やるべき一つ一つのことに懸命に取り組むことの大切さを改めて知ってほしいということです。
皆さんが想像している以上に社会には厳しさ,困難さが待ち受けています。その中で皆さんがすべきことは,自分の目の前にある仕事や課題の一つ一つに真摯に向き合い,努力を続けることです。厳しい状況でも決して諦めずに,少しずつでも前に向かって努力して下さい。大変だと思う人は,自分にできるものから手を付けてみて下さい。小さな達成感を積み重ねることや,仕事や日々の暮らしの中に自分なりの楽しみを持つことが継続するコツだと思います。毎日の努力を積み重ねる姿勢は,周囲の共感や協力を生み,少しずつかもしれませんが困難な状況をも好転させてくれます。そして,一歩ずつですが,確かな成長を遂げ,その成長を基礎として,未来への新たな道が拓かれます。
二つ目は,強く,優しい人間になってほしいということです。人間の真の強さ,優しさとは,自分の弱さを認め,他人に助けられ,自らも他人に手を差し伸べ,支え合って生きていくことだと思っています。これから皆さんが成長していく過程では,その成長を自分のためだけではなく,周りの人達へも向けて下さい。また,皆さんが今日この日を迎えることができるのも,皆さん一人ひとりの努力もさることながら,周囲の人達の支え,励ましがあったからこそです。家族,友人,教職員,同窓会,地域社会。様々な人達が皆さんの支えとなってくれています。そのことを理解し,その方々への感謝の気持ちを忘れないようにして下さい。
最後に,佐賀大学で培った力,得られた経験,友人,恩師や職員との出会いと繋がりは皆さんにとって,かけがえのない財産です。自信を持って,自らが信じた未来に向かって,大きな歩みを進めて下さい。
私は皆さんの門出に当たり「志,挑戦,そして未来へ」という言葉を贈ります。“今”この瞬間を大切にして,志をもって挑戦を続けて下さい。卒業後の未来,皆さんの前にはどんな景色が広がっているのか。その景色を決めるのは,あなたたち自身です。これから真の社会人へと成長して,思い描いている景色の中で大きく羽ばたき,活躍することを祈念して学位授与の式辞とします。
令和5年3月24日
国立大学法人佐賀大学長 兒玉 浩明