令和5年度佐賀大学入学式告辞
このたび入学を迎えた1,667名の新入生の皆さん,そして,本学で学ぶため海外から来日した留学生の皆さん,入学おめでとうございます。佐賀大学を代表して,心から歓迎します。また,新入生を物心両面から支えてこられたご家族の皆様,関係者の皆様にも心からお祝い申し上げます。今日この日を迎えるまでに,大切に育てられ,時には共に喜びを分かち合い,時には意見が衝突したり,と色々なことがあったかと思いますが,立派に成長された姿を目にされ,喜びもひとしおと拝察いたします。
佐賀大学は,明治17年に創設された佐賀師範学校を母体とし,旧制佐賀高等学校及び佐賀青年師範学校との統合によって昭和24年に設立された旧佐賀大学と,昭和51年に開学した佐賀医科大学とが平成15年に統合し,さらに平成16年の国立大学法人化を経て,設置されました。現在は,教育学部,芸術地域デザイン学部,経済学部,医学部,理工学部,農学部の6学部・6研究科体制となっています。佐賀県唯一の国立大学として教育・研究・社会貢献活動を展開し,地域に根差し,地域と共に未来へ向けて発展し続ける大学づくりを進めています。
現代の社会は,これまで以上に予測困難な時代を迎えようとしています。DXをはじめとしたデジタルサイエンスの目覚ましい発展,カーボンニュートラルの実現に向けたグリーントランスフォーメーション(GX),急速なグローバル化など,これまでの常識が,ごく短期間のうちに一変するような時代であり,その端緒はすでに始まっています。皆さんはスマートフォンを通じて個人でありながら世界中に簡単にアクセスすることが可能です。多様な情報に触れることはもとより,映画やテレビを見たり,商品を購入したり,チケットを手配したり,他者とコミュニケーションを取ったり,手のひらの中でおおよそのことが完結してしまいます。そのことは,人々の考え方や行動を変えていき,日常生活から人間関係に至るまで大きな変革をもたらしていきます。製造業や金融業,医療や介護,農業といった様々な分野,そして教育の現場でもDX化が進み,職業形態もこれからどんどん変わっていくことでしょう。他方,スマートフォンは開発途上国をはじめ世界的にも急速に普及が進んでいます。教育や医療,ビジネスなどの分野で情報へのアクセスが誰にでも容易になることは,個人の能力向上やビジネスモデルの変革に繋がり,ひいては将来的な国と国との関係の変化として表れてくることでしょう。もはや今の日常は,決して当たり前のものではないのです。
今日から皆さんは大学生としてのスタートを切りました。大学とは,皆さんが将来,社会へ羽ばたくため,更にはその後の人生を通じて,人として成長していくための土台を作る場所です。予測困難な時代を迎えている,この社会で活躍するために,皆さんは大学生活の中で何をすべきでしょうか。
私は,皆さん一人ひとりに,まずは将来の目標をもってもらいたいと思っています。なりたい職業,勉強したいこと,語学やプログラミングなどの習得したいこと,何でも構いません。社会に出たあとの自分を想像して,自分なりの目標を見つけて下さい。目標を持つと,意識が変わり,意識が変わると行動が変わります。なにより日々のやる気が上がって,ポジティブな思考となり,毎日にやりがいと楽しみが出てきます。将来の目標を持つことは,人間的成長の第1歩です。そして,大切なことは,その目標を達成するための一つ一つの努力を決しておろそかにしないということです。皆さんが目標に向かって行動する中で直面する全てのやるべきことに正面から向き合い,「このくらいでいいだろう」でなく,「これでもか,これでもか」と懸命に努力を重ねることが必要です。最初から大きなこと,大変なことから取り組むと挫折してしまうかもしれませんので,自分が出来る小さなものから取り掛かってみて下さい。小さな達成感を積み重ねることや自分なりの楽しみを見つけることが努力を継続するコツだと思います。
また,社会で起きている問題や課題に目を向けてみると,必ずしも善と悪といった単純な対立構造で捉えられるものばかりではありません。地理的,歴史的な要因や文化的な要因など,多様で複雑な問題が横たわり,時には深刻な対立が生じていることもあります。そこでは,自らの考えに固執するのではなく,広い視野で物事を見つめ,自ら考え,判断し,行動することができる,言わば「しなやかな知性」が求められます。それを身に付けるためには,自分の専門分野を学修することだけでなく,異なる分野の勉強にも積極的に取り組み,幅広い学力や教養,考え方を身に付けることが必要です。本や新聞などの活字を読む習慣を身に付けてみて下さい。色々な考えや知識に触れることができるだけでなく,語彙力や思考力,想像力,コミュニケーション能力を向上させることができます。また,課外活動や地域活動などへの参加を通じて,様々な人々との交流も深めて下さい。時には相手の立場に立って物事を見ると,同じ出来事が全く別の見え方をするかもしれません。物事の別の価値観を理解し,視野を広げることは,ひいては自らの中に多様性や包摂性を育むことに繋がります。
そして,大学生活全般を通じて意識してほしいことは,周囲への感謝の気持ちと思いやりの心を持つということです。今皆さんがスタートラインに立つことができているのは,皆さん一人ひとりの努力もさることながら,周囲の人達の支え,励ましがあったからこそです。家族,友人,学校,地域社会。多くの人達が皆さんの支えとなってくれています。その方々への感謝の気持ちを忘れないようにして下さい。そして,これから日々成長していく過程では,その成長を自分のためだけではなく,周りの人達へも向け,今以上に強く,優しい人間に成長して下さい。
佐賀大学は,皆さんの大学生活を全力でサポートしていきます。各種相談窓口,奨学金等の生活支援,チューター制度といった教育上のサポートなど,様々な取組を通じて教員,職員をはじめ,多くの人達が皆さんを支えていきます。分からないこと,困ったことがあれば,一人で悩まずに相談して下さい。
最後に,私から皆さんへ「志,挑戦,そして未来へ」という言葉を送ります。志とそれを実現するための挑戦と努力こそが皆さんの未来を切り拓いていってくれます。「光陰矢の如し」という言葉があります。大学で学ぶことに対して,大学生活は長いようで,実際はとても短いものです。時に大きな困難に直面することもあるかもしれませんが,歩みを止めることなく,着実に未来へ向かって進んでいって下さい。
皆さんが胸に抱いている期待と希望とやる気を忘れることなく,心身ともに健康で充実した大学生活を送り,人間的に大きく成長していくことを祈念し,入学式の告辞とします。
令和5年4月4日
国立大学法人佐賀大学長 兒玉 浩明