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令和5年度国立大学法人佐賀大学学位記授与式式辞


今日、ここに、学位を授与された1,546名の卒業生、修了生の皆さん、佐賀大学を代表して心からお祝いを申し上げます。卒業・修了の日を迎えることになった皆さんは、入学以来、真摯に勉学に励み、様々な困難に打ち克ち、本日学位を授与されました。また、遠く母国を離れ、本学で学んだ留学生の皆さんは、言葉や習慣の異なった困難な環境の中で研鑽を積み、見事学位を取得されました。このことに心からの敬意を表します。

そして、今日この日を迎えるに当たり、卒業生、修了生を物心両面から支えてこられたご家族の皆様、同窓会をはじめ、ご支援いただいた全ての皆様に、佐賀大学の教職員一同、心からお祝いとお礼を申し上げます。


ここで、式辞に先立ち、本年1月に発生しました能登半島地震において犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。被災地域の一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。


さて、皆さんの多くは、新型コロナウイルス感染症が発生し、その後世界的に猛威が広がるなか、令和2年4月に大学生活をスタートしました。世界中が手探りの状態でコロナ禍における生活様式を模索し、昨年5月の5類感染症移行までの3年間、多くの制約がかかる中での大学生活となりました。令和2年度の入学式は中止となり、授業開始も遅れるなど、異例ずくめの中で、とても戸惑いがあったことと思います。佐賀大学でも何が正解なのかも分からないなか、政府や他大学とも情報を共有しながら、学生、教職員の命と健康を守るため、大学一丸となって必死でコロナ禍における大学のあり方を考え、実行してきました。当時はほとんど例のなかった遠隔授業の導入、課外活動の制限、手指消毒薬の設置や換気用設備などの環境整備などです。入学前に想像していた学生生活とは違ったものになったかもしれませんが、コロナ禍で苦しい時期を経験したことは、皆さんの人間的な強さに繋がり、他人の気持ちを理解し、思いやる上で、とても貴重な財産になるものと信じています。


コロナ禍で平穏な毎日が一変した経験は、今の日常が決して当たり前のものではないのだと、私たちに身をもって教えてくれました。世界に目を向けるとロシアのウクライナ侵攻や中東のパレスチナ紛争などで多くの尊い命が失われ、日本を含め世界各国に大きな影響を与えています。このような出来事に内在している問題や課題に目を向けると、必ずしも善と悪といった単純な対立構造で捉えられるものばかりではありません。地理的、歴史的な要因や文化的な要因など、多様で複雑な問題が横たわり、時には深刻な対立が生じていることもあります。一方で、AIやデジタルトランスフォーメーション(DX)などのデジタルサイエンスの目覚ましい発展、カーボンニュートラルの実現に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)など、我々の想定を超えた速さで世界は変わっています。パソコンやスマートフォンを介した情報技術の急速な進化は、個人と社会、そして様々な国や地域間の関係性も劇的に変えていくことでしょう。特に昨今の生成AIの発展は、生活の様々な場面に大きな影響を及ぼしています。先日芥川賞を受賞された九段理江さんの「東京都同情塔」では、作品作りに生成AIを利用したことが話題となりました。今後ますます私達の日常にデジタル技術が溶け込んでいくことは言うまでもなく、そう遠くない未来では人の思考や行動の変化はもとより、社会の中で人間が果たすべき役割が根本的に変わってしまうのではないかと感じずにはいられません。まさに社会は、予測困難な時代への転換期にあると言えるでしょう。


これから皆さんは、それぞれが選んだ新たな進路に進まれますが、このような社会的状況の中で必要となるものは、誠実な人間性を基本としつつ、知識や経験、行動することが融合して得られる、「これからを生き抜く力」です。すなわち幅広い豊かな教養を基礎として、自ら考え、未知なるものに挑戦する行動力、確かな判断力や表現力、広い視野で物事を見る力、多様な価値観や背景を持つ人々に対する理解と協働する力です。皆さんがこれから直面する問題は、正解のあるものばかりではありません。その中にあっても、皆さんは問題の本質を見極め、自ら課題を発見し、課題解決のための方法を模索し、実行して乗り越えていく必要があります。佐賀大学では、皆さんが社会で必要となる力を身に付けるための教育に力を注いできました。皆さんの中には、既にその力が根を張り、大きな幹を形作っています。


また、これからの仕事や生活の中で今まで経験したことのない発見や喜びを経験する一方で、皆さんが想像している以上に社会には厳しさ、困難さが待ち受けています。日々の暮らしの中で厳しさ、困難さに直面して失敗や挫折、後悔を経験することもあるでしょう。その時に皆さんがすべきことは何なのか。それは、「目の前のやるべき一つ一つのことを決して疎かにしない」ということです。仕事や課題に真摯に向き合い、解決に向けて努力を続けて下さい。厳しい状況でも決して諦めずに、少しずつでも前に向かって努力を積み重ねることで、周囲の共感や協力を生み、少しずつかもしれませんが困難な状況をも好転させ、確かな成長を遂げることができます。その成長を基礎として、未来への新たな道が拓かれるのです。また、社会は様々な人や文化、制度などの要素が相互に影響し合って成り立っています。そのため、物事を自分だけの考え、すなわち一方的な見方だけをしていても上手くはいきません。これからは、相手の立場に立って物事を考えてみて下さい。相手の立場に立って考えてみることで、物事の違う一面が見えてくることがあります。そのことが自らの中に多様性や包摂性を育み、物事の別の価値観を理解することに繋がり、視野が広がることでしょう。視野の広がりは、皆さんの行動を変え、ひいては本当の意味で他者との信頼関係の構築や協働を実現してくれます。


そして、皆さんのこれからの成長を自分のためだけではなく、周りの人達へも向けて下さい。人間の真の強さ、優しさとは、自分の弱さを認め、他人に助けられ、自らも他人に手を差し伸べ、支え合って生きていくことだと思っています。皆さんが今日この日を迎えることができたのも、皆さん一人ひとりの努力もさることながら、周囲の人達の支え、励ましがあったからこそです。家族、友人、教職員、同窓会、地域社会。様々な人達が皆さんの支えとなってくれています。そのことを理解し、その方々への感謝とともに、今度は皆さんが他の人たちの支えとなれる、強く、優しい人間になって下さい。


人生とは、1日1日の積み重ねでできています。今日という1日を大切にするからこそ、明日という未来が生まれてくる。過去にとらわれたり、ぼんやりと未来を想像するのではなく、毎日を大切に過ごして下さい。


最後に、佐賀大学で培った力、得られた経験、友人、恩師や職員との出会いと繋がりは皆さんにとって、かけがえのない財産です。自信を持って、自らが信じた未来に向かって、大きな歩みを進めて下さい。


私は、皆さんの門出に当たり「志、挑戦、そして未来へ」という言葉を贈ります。これから真の社会人へと成長して、思い描いている景色の中で大きく羽ばたき、活躍することを祈念して学位授与の式辞とします。



令和6年3月22日
               国立大学法人佐賀大学長   兒玉 浩明

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